【登山紀行】初夏の飯豊山縦走Day2 斜面を黄色く染めるその花の名は?

2日目の夕方、小屋のテント場では誰もが同じ方向を見つめていた。


僕も山小屋で購入した缶ビールを片手に、みんなと同じように穏やかな視線で、それを見送っている。
山並みに沈んでいく夕陽と、その光と雲と空が織り成す夕暮れのアートは、その日の疲れを吹き飛ばしてくれる。
ときおり、大日岳に視線を向けると、紅の空を背景に、雲を羽衣のように羽織っている。

世界が
 夏の青から紅へ染まっていく瞬間。
 動から静へと変わっていく瞬間。

『 いい1日だったなぁ。。。』

心の声が、そのまま言葉に出ていた。

f:id:msbar-yama:20190616082623j:plain

テント場から眺める夕暮れの大日岳(飯豊山縦走2日目)

◇◇◇◇◇◇◇◇


門内小屋での暖かい夜を過ごした翌朝、小屋周辺はまだガスの中だった。

ときおり、あたりが急に明るくなり、緑の稜線に伸びていく登山道を遠くまで追える瞬間がある。でもまたすぐに、ガスに遮られてしまう。

太陽は既に登っていて、辺りを覆う白いモヤに乱反射してとても明るいのに、その丸い輪郭は見えそうで見えない。

真っ昼間のように明るいのに、真っ白で全く視界が効かない状態だ。

都会では決して体験できない、山独特の気候だ。


飯豊連峰は、天気さえ良ければ前日とは別の顔、天空の縦走路が顔を見せる。

たおやかな稜線がどこまでも続き、水墨画のような山並みに囲まれた、スキップしたくなるような道だ。
運とタイミングが良ければ、雲海から頭を出した山々の稜線を、ラピュタにいるような気分で歩くことができる。

雑誌やアウトドアサイトの絶景写真と記事を読むたびに、こんな道をテントを担いで歩きたいと思っていた。

せっかく来たのだから、できればそんな景色を堪能したい。幸いなことに、予報では午後には天気が回復するらしく、ガスが完全に抜けるかもしれない。
午前中の遅い時間までねばり、天気の回復を待ってから出発することした。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

今回の登山計画は2泊3日の行程+予備日を1日設けていたため、丸1日停滞しても、計画の範囲内だ。ただし、今後天気が悪化し、停滞を余儀なくされる可能性を考えると、予備日を全て消化するのはリスクが上がる。

山での楽観は禁物で、常に「最悪の状況」とまでは言わないが、想定通りに行かない可能性を考慮して、行動することを忘れてはいけない。
単独登山をする場合はなおさら、そういったリスク管理をしていくことが、今まで10年以上も怪我や遭難をせずに登山を楽しめて来れた秘訣だと思う。


◇◇◇◇◇◇◇◇


まだ少しガスが残っていたが、正午前に小屋を出発した。

時間が経つにつれて、ガスの切れ目の晴れ間の時間が、徐々に長くなってきている。
ガスがかかっていた時にはわからなかったが、大地全体が緑の絨毯に覆われていて、残雪の白ブチが、所々で白く輝いて見える。それに加え、黄色い大きな花が所々で群生している。

ニッコウキスゲだ! 』

f:id:msbar-yama:20190616081320j:plain

思いもよらずに姿を現したニッコウキスゲたち。山の斜面を黄色く染めている。


その花は、ちょうど春から夏にかけて高原地帯に咲く花で、尾瀬ヶ原霧ヶ峰で一大群落が見れることで有名だ。
僕が登山のめり込むきっかけの1つとなった花でもあり、いつ見ても登山の楽しさを思い出させてくれる花だ。まさかここ、飯豊山で見れるとは思ってなかったので、前日の過酷さなど吹っ飛んで、嬉しさと楽しさでいっぱいになり、本当にスキップしたくなったほどだ。

 

f:id:msbar-yama:20190616083418j:plain

ニッコウキスゲと飯豊連峰


2000メートルを超えるピークをいくつか超えると、遠くの稜線上にポツンと建物があるのが見えた。今日の宿泊地の御西小屋だ。なんて見晴らしの良いところにあるんだ!!!

小屋へ至る道は、緩く高度を上げながら稜線上を行く道で、大きな残雪をいくつかトラバースした先に立っていて、ちょうど3方向の稜線が合流するポイントでもある。
一つは今僕が歩いている稜線、もう一つが飯豊本山へ続く稜線、もう一つが大日岳へ続く稜線だ。

『 よし、あともう少しだ。』

 

f:id:msbar-yama:20190616080406j:plain

遠くの稜線上にポツンと佇む御西小屋。ちょうど3方向からの稜線が合流するポイントに立っている


それから1時間程で小屋に到着した。

その頃にはガスは完全に姿を消して、ここぞとばかりに待ち構えていたかのように強烈な日差しが差し込み、あたりを鮮やかな夏の色彩へ変えている。

 

御西小屋のテント場は裏手、大日岳方面に設けられている。稜線上のため風の影響をもろに受けるが、三方向の眺望が得られる絶景のテント場だ。
特に大日岳方向の景色は、大日岳の姿を真正面に見ることができ、遮るものが何もない!

小屋から一番遠く、大日岳に一番近い位置に荷物をおろし、テントを設営する。

 

f:id:msbar-yama:20190616083956j:plain

御西小屋と大日岳(飯豊山縦走2日目)

 

f:id:msbar-yama:20190505031139j:plain

大日岳を間近にテント泊(御西小屋のテント場より)

こんな景色が独り占めできるのだから、テント泊はやめられない。
常に自分が山に居ることが、視覚的にダイレクトに伝わってくるし、より深く自然に浸る事ができる、非日常で贅沢な時間だ。

そんな時間を、山小屋で購入した缶ビールと小説と昼寝で満喫し終えたころ、大自然の夕暮れショーが始まった。

f:id:msbar-yama:20190616082845j:plain

大自然の夕暮れショー(御西小屋のテント場より)

3日目へ続く。